ざわめき

「わにゃ、わにゃ」というような、静かなざわめきをともなった空気の振動が、章の皮膚に伝わってきた。それは踊り手のまわりをとり囲んでいる村の人間たちのかもし出すものらしかった。もう死人となってしまった章の眼に、彼等はうつらないのであった。紙の帽子をかぶった踊子だけが判然と見えるのであった。深い安堵の思いが、再び彼の胸をひたした。


欣求浄土』「一家団欒」藤枝静男、(講談社文芸文庫)より