2008-07-01から1ヶ月間の記事一覧

夢の中の・・・

私がこう云った時、背の高い彼は自然と私の前に委縮して小さくなるような感じがしました。 彼はいつも話す通り頗る強情な男でしたけれども、一方では又人一倍の正直者でしたから、自分 の矛盾などをひどく非難される場合には、決して平気でいられない質だっ…

おへそ

男は、いちいちびつくりしてみせ、 ばかみたいに上ずつた声で、言ふ。 「これがおへそといふものかい」 てめへだつてもつてゐるくせに。 金子光晴「愛情13」『愛情69』(岩波文庫)より

待つということ

八蔵 何の話してるだ。 船長 五助を喰べる話だ。 八蔵 ……やっぱ、その話か。早く海へ流さねえからいけねえだ。 西川 八蔵、おめえ、こったら話聴いても驚かねえのか。 八蔵 ……驚きてえんだが驚けねえのさ。なぜ驚けねえのかと、不思議でたまんねえけど驚けね…

行方知れずの船となり、

いったい何処へおもむこうとしているのか、わからぬままに魅了し、またみずからも途方にくれながら流れゆき、ときに座礁し暗雲を見つめ、ときに見知らぬ港に停留し不味い酒と年増の女を抱き、そうして半ば舵の壊れた航跡の果てに行方知れずの船となり、それ…

茶匙

愛情Ⅰ 愛情のめかたは 二百グラム。 僕の胸のなかを 茶匙でかき廻しても かまわない。 どう?からつぽだらう。 愛情をさがすのには 熟練がいるのだ。 錠前を、そつと あけるやうな。 愛情をつかまへるには 辛抱が要る。 狐のわなを しかけるやうな。 つまり…

おとぎばなし

「では、このグリーンのは」と彼は言う。「お気に召しませんか?」 「ええ、駄目ですね」 「こちらの色はお客様によくお似合いです」 「ええ」とぼくは言う。「でも、欲しいのとちがうんです」 「どこか、ご不満でも?」 「いや別に。要するに、そんなに好き…

「玄関を入るとタタキになっていて、上がると四帖半のタタミ、右手に応接間の扉、その前を過ぎると廊下が奥のほうへ続いていて・・・・・」 「僕はこれから君の電話のところまで行こうとしてるわけじゃないんだよ。ただ電話がどこにあるか、それだけを言って…

木陰

神社の鳥居が光をうけて 楡の葉が小さく揺すれる 夏の日の青々した木陰は 私の後悔を宥めてくれる 中原中也『山羊の歌』「少年時」より

いまだしらざるつちをふみ

そはわがこころのさけびにして またわがこころのなぐさめのいづみなれば みしらぬわれのかなしく あたらしきみちはしろみわたれり さびしきはひとのよのことにして かなしきはたましひのふるさと こころよわがこころよ ものおぢするわがこころよ おのれのす…

まあるくあいたあなのなか

こがねだなんていわれても このぴかぴかのいっちょーら ぶどうににているつるのはを しずかにはむのがたのしみで まあるくあいたあなのなか にせものもどきのどんぐりと そだちざかりのどんぐりと おいらのぴかぴかほうりこみ ぶどうににているつるはのび ま…

どくだみの花

梅雨に入ろうとする少しまえに庭の片隅でどくだみの花が咲きだす 犀星も高校時代によく読んだ詩人のひとり 蛇 室生犀星 蛇をながむるこころ蛇になる ぎんいろの鋭き蛇になる どくだみの花あをじろく くされたる噴井の匂ひ蛇になる 君をおもへば君がゆび する…