2008-01-01から1年間の記事一覧

衛星の影

忘れたい 忘れない 永遠の周回 宇宙へと解放されることもなく 地上へと舞いもどることもなく 恒星のあかるさを反射させながら まわる うたう ねむる 金属製の記憶 負傷したこども そよ風 油田 溶けていく氷河 さよなら 燃える 美しく 燃える きみ おれ ぼく …

ゆっくり

ゆっくり ゆっくり あまぐもきえて さわさわ さわさわ はっぱがゆれて むふむふ むふむふ みるくをのんで すやすや すやすや ともにねむりて ゆったり ゆったり てあしをのばし すたすた すたすた ろうかあるいて ゆっくり ゆっくり おうちにかえろう ゆっく…

すべての〈知〉は、絶対という観点から見れば方法論である。だから、明確に方 法的なものに対するもの怖じは無用である。方法的なものは器であって、唯一者の 外側にあるすべて、それ以上のなにものでもない。 F・カフカ「ノートG」(『夢・アフォリズム・…

夢の中の・・・

私がこう云った時、背の高い彼は自然と私の前に委縮して小さくなるような感じがしました。 彼はいつも話す通り頗る強情な男でしたけれども、一方では又人一倍の正直者でしたから、自分 の矛盾などをひどく非難される場合には、決して平気でいられない質だっ…

おへそ

男は、いちいちびつくりしてみせ、 ばかみたいに上ずつた声で、言ふ。 「これがおへそといふものかい」 てめへだつてもつてゐるくせに。 金子光晴「愛情13」『愛情69』(岩波文庫)より

待つということ

八蔵 何の話してるだ。 船長 五助を喰べる話だ。 八蔵 ……やっぱ、その話か。早く海へ流さねえからいけねえだ。 西川 八蔵、おめえ、こったら話聴いても驚かねえのか。 八蔵 ……驚きてえんだが驚けねえのさ。なぜ驚けねえのかと、不思議でたまんねえけど驚けね…

行方知れずの船となり、

いったい何処へおもむこうとしているのか、わからぬままに魅了し、またみずからも途方にくれながら流れゆき、ときに座礁し暗雲を見つめ、ときに見知らぬ港に停留し不味い酒と年増の女を抱き、そうして半ば舵の壊れた航跡の果てに行方知れずの船となり、それ…

茶匙

愛情Ⅰ 愛情のめかたは 二百グラム。 僕の胸のなかを 茶匙でかき廻しても かまわない。 どう?からつぽだらう。 愛情をさがすのには 熟練がいるのだ。 錠前を、そつと あけるやうな。 愛情をつかまへるには 辛抱が要る。 狐のわなを しかけるやうな。 つまり…

おとぎばなし

「では、このグリーンのは」と彼は言う。「お気に召しませんか?」 「ええ、駄目ですね」 「こちらの色はお客様によくお似合いです」 「ええ」とぼくは言う。「でも、欲しいのとちがうんです」 「どこか、ご不満でも?」 「いや別に。要するに、そんなに好き…

「玄関を入るとタタキになっていて、上がると四帖半のタタミ、右手に応接間の扉、その前を過ぎると廊下が奥のほうへ続いていて・・・・・」 「僕はこれから君の電話のところまで行こうとしてるわけじゃないんだよ。ただ電話がどこにあるか、それだけを言って…

木陰

神社の鳥居が光をうけて 楡の葉が小さく揺すれる 夏の日の青々した木陰は 私の後悔を宥めてくれる 中原中也『山羊の歌』「少年時」より

いまだしらざるつちをふみ

そはわがこころのさけびにして またわがこころのなぐさめのいづみなれば みしらぬわれのかなしく あたらしきみちはしろみわたれり さびしきはひとのよのことにして かなしきはたましひのふるさと こころよわがこころよ ものおぢするわがこころよ おのれのす…

まあるくあいたあなのなか

こがねだなんていわれても このぴかぴかのいっちょーら ぶどうににているつるのはを しずかにはむのがたのしみで まあるくあいたあなのなか にせものもどきのどんぐりと そだちざかりのどんぐりと おいらのぴかぴかほうりこみ ぶどうににているつるはのび ま…

どくだみの花

梅雨に入ろうとする少しまえに庭の片隅でどくだみの花が咲きだす 犀星も高校時代によく読んだ詩人のひとり 蛇 室生犀星 蛇をながむるこころ蛇になる ぎんいろの鋭き蛇になる どくだみの花あをじろく くされたる噴井の匂ひ蛇になる 君をおもへば君がゆび する…

それだけのこと

時は逝く 時は逝く、赤き蒸汽の船腹の過ぎゆくごとく、 穀倉の夕日のほめき、 黒猫の美しき耳鳴のごと、 時は逝く、何時しらず、柔かに陰影してぞゆく。 時は逝く、赤き蒸汽の船腹の過ぎゆくごとく。 北原白秋 『現代詩の鑑賞(上)』伊藤信吉(新潮文庫)よ…

あれは

言葉なき歌 あれはとほいい処にあるのだけれど おれは此処で待つてゐなくてはならない 此処は空気もかすかで蒼く 葱の根のやうに仄かに淡い 決して急いではならない 此処で十分待つてゐなければならない 処女の眼のやうに遙かに見遣つてはならない たしかに…

単純なことは

カモミールが地面に種を落しはじめ、そしていつしかバラも散り、やがて梅雨に入る。そのころに満開となる花たち。単純なことはいつでも繊細で複雑な経緯を他愛もなく色にかたちにしてしまう。だからひとはいつも愚かでひとのなすことはいつもすばらしいのか。…

い咲き廻れる

車持朝臣千年の作る歌一首 鯨魚取り 浜辺を清み うちなびき 生ふる玉藻 に 朝凪に 千重波寄り 夕凪に 五百重波寄る 辺つ波の いやしくしくに 月に異に 日に日に 見とも 今のみに 飽き足らめやも 白波の い 咲き廻れる 住吉の浜 『万葉集』巻第六-九三一 (旺…

めでたき対価

モロモロのイストワールはほろ酔いの星の蛇行か踏み外してさ ゆえに歴史とは内容を読むべきものではなく、かたちを触るべきものなのだろう。そうして、おそらく声はそこからしか聴こえてこないだろう。 フィギュアの落札価格十数億は、歴史を生真面目に読み…

コージズキン

かかれたものとかいたひととのかんけいは くうきあなのあいたふくろの おもてとうらのようなもの だから なんでズキンなのかはわからない だから ひっくりかえしてもわからない そいつがだいまほうってわけさ

穀雨

今日は「穀雨」。とは言っても雨の降ったのは一昨日と昨日で、今日は朝から晴天。で、すこしドライブしたり散歩したり。そこで目にしたかわいい・うつくしい・おいしいものたち。 上から:散歩中みかけたカタツムリのなる木、庭のハナカイドウ、草原で草をは…

四月四日

四月四日木曜日 快晴 昨夜は未明四時過ぎに枕に頭をつけたが、漸く朝六時頃から眠つた。眠りつく迄ノラの事で非常 に気持が苦しかつた。これではもう身体がもたぬと思ふ。昼間ぢゆう寝て四時過ぎに起きた。夕方 平山からの電話の時、猫捕りに持つて行かれた…

風を送る

「君は別さ。物書きだから」 「そうね。小説を書いているときは、嫌でも目を開けてなきゃならないから」 「ふいごを操るのか?」 「違うわ。風を送るのはわたしじゃないの。主人公たちの衝動が風を送るのよ。あるいは、主人公たち の行動理念って言ってもい…

フーガはつづくよフーガはつ

27・27・27・念には念を ある日の正午頃、わたしはほぼ満員のS系統のバスに乗った。ほぼ満員のS系統の バスには、かなり滑稽なひとりの若者が乗っていた。わたしは彼と同じバスに乗り合わせ たわけだが、わたしが正午頃乗ったこのほぼ満員のS系統のバスに…

99のフーガ

22・語尾の類似 ある日のお昼、バスに乗る。車が走る。くるくる回る車のなかに、軽々立ってるワルがいる。まるまる肥えてる客がぶつかる。ずるずる押される、ワル怒る。ぶるぶる震える、咎める、怒鳴る。「この猿、何する」。威張るがすぐ去る。あいてる席取…

季節はずれのヴァレンタイン

それはまるで水のように変幻自在に「になる」。鉄に、風に、翼に、滝に、砂に、髪に、そして、声になる。ときに殺し、ときに甦らせる。忘却と記憶のはざまでゆれる案山子。静止あるいは亀裂のたたずまい、その色合いと光り。照葉樹の下を流れるやわらかな流…

春の雨は

大伴宿禰家持、藤原朝臣久須麻呂に報へ贈る歌三首 春の雨はいやしき降るに梅の花いまだ咲かなくいと若みかも 『万葉集』巻第四-七八六(旺文社文庫)より

すると吹きつのって来た風が、

厨の前の四本の大きな椎の枝に縄が張られ、洗濯物はその縦横に張られた麻縄を隈なく占領し て、栗林のなかを吹き抜けてくる西風にはためいている。繋がれたマギは頭上にひるがえるこの 白い影の戯れに、何度も居ずまいを直しては、また思い出したように断続…

マリアのなかの・・・

そのなかにあるのはなにか。( )のなかにあるのは・・・そこになにもないのなら、( )は存在しなくなるのだろうか。それは「イデア」ではないだろう。それは「現実」ではないだろう。けれどそれは生まれてくるだろう。生起するだろう。波のように、風のように…

それは波の・・・

(中略)この世界とは、すなわち、初めもなければ終わりもない巨大な力(force、フォルス)、増大することもなければ減少することもなく、消耗するのではなくて転変するのみの、全体としてはその大きさを変ずることのない青銅のごとくに確固とした力の量、(…