2008-06-01から1ヶ月間の記事一覧

それだけのこと

時は逝く 時は逝く、赤き蒸汽の船腹の過ぎゆくごとく、 穀倉の夕日のほめき、 黒猫の美しき耳鳴のごと、 時は逝く、何時しらず、柔かに陰影してぞゆく。 時は逝く、赤き蒸汽の船腹の過ぎゆくごとく。 北原白秋 『現代詩の鑑賞(上)』伊藤信吉(新潮文庫)よ…

あれは

言葉なき歌 あれはとほいい処にあるのだけれど おれは此処で待つてゐなくてはならない 此処は空気もかすかで蒼く 葱の根のやうに仄かに淡い 決して急いではならない 此処で十分待つてゐなければならない 処女の眼のやうに遙かに見遣つてはならない たしかに…

単純なことは

カモミールが地面に種を落しはじめ、そしていつしかバラも散り、やがて梅雨に入る。そのころに満開となる花たち。単純なことはいつでも繊細で複雑な経緯を他愛もなく色にかたちにしてしまう。だからひとはいつも愚かでひとのなすことはいつもすばらしいのか。…

い咲き廻れる

車持朝臣千年の作る歌一首 鯨魚取り 浜辺を清み うちなびき 生ふる玉藻 に 朝凪に 千重波寄り 夕凪に 五百重波寄る 辺つ波の いやしくしくに 月に異に 日に日に 見とも 今のみに 飽き足らめやも 白波の い 咲き廻れる 住吉の浜 『万葉集』巻第六-九三一 (旺…