衛星の影

忘れたい
忘れない
永遠の周回
宇宙へと解放されることもなく
地上へと舞いもどることもなく
恒星のあかるさを反射させながら
まわる
うたう
ねむる
金属製の記憶

負傷したこども
そよ風
油田
溶けていく氷河
さよなら

燃える
美しく
燃える
きみ おれ ぼく
こんにちは
わたし
緑なす迷い道

ホーチミンの竹林で笑う
ドバイの丘で踊る
手を結ぶ切れぎれの未来
ゆらめく旗
それら色彩と輪郭の隙間に
零れ落ちるよ歴史
逃げて行くよ小鳥たち
それから
ゆれる麦の穂

それでも涙してはならないだろう
それなら涙してもいいだろう
ゆっくりと軌道をなぞる
果てのない(愛情)

凍りつく冷たさのなかで
レンズを見ひらき
ヒトのいなくなるまで見つづけることは
案外退屈なことではないよ

透明なかなしみと
孤独なたのしみが
今日も通りすぎる

その影がテムズ河を溯る