聖ジュリアン伝

 ジュリアンの両親は、とある丘の中腹の、まわりを森に囲まれた城に住んでいた。
 四隅にそびえる塔は、うろこ形の鉛で葺いたとがった屋根を頂いていた。城壁の土台は岩の上にすえられ、その岩は切り立った斜面をなして堀の底までつづいている。
 中庭の舗石は、教会の床の敷石のように手入れがゆき届いている。口を下にした竜をかたどった長い樋から、雨水が貯水槽に吐きだされる。どの階の窓辺にも、彩色した陶器の鉢にめぼうきやヘリオトロープの花が咲いていた。
 杭をめぐらした囲み塀の内側には、まず果樹園がある。つぎに花文字でイニシャルを描きだした花壇、そして涼むためのアーケードをもうけたぶどう棚と、もう一方の側には犬舎、馬小屋、パン焼き場、ぶどうの圧搾小屋、穀物倉が立ちならんでいる。そのまわりに青々とした芝草のしげる牧場がひろがり、さらにその外側をがっしりとした茨の生垣がとり囲んでいる。
 久しく平和な暮らしがつづいたので、城門の落し格子はおろされることがなかった。塀には草が生いしげり、城壁の狭間のすきまにつばめが巣をつくっている。稜堡をつなぐ壁の上を終日見まわって歩く弓兵は、日ざしがあまりに強くなるとすぐ物見台に引きかえし、そこで修道僧のように眠りこむのだった。


『三つの物語』フローベール太田浩一訳(福武文庫)より