2007-11-24 掟 彼方へ #練習用 「欲の深いやつだ」 と、門番は言った。 「まだ何が知りたいのだ」 「誰もが掟を求めているというのに」 と、男は言った。 「この永い年月のあいだ、どうして私以外の誰ひとり、中に入れてくれといって来なかったのです?」 いのちの火が消えかけていた。うすれていく意識を呼びもどすかのように門番がどなった。 「ほかの誰ひとり、ここには入れない。この門は、おまえひとりのためのものだった。もうおれは行く。ここを閉めるぞ」 『カフカ短篇集』「掟の門」池内紀編訳(岩波文庫)より