厨の前の四本の大きな椎の枝に縄が張られ、洗濯物はその縦横に張られた麻縄を隈なく占領し
て、栗林のなかを吹き抜けてくる西風にはためいている。繋がれたマギは頭上にひるがえるこの
白い影の戯れに、何度も居ずまいを直しては、また思い出したように断続的に吼えた。悦子は干
し了って洗濯物のあいだを見てまわった。すると吹きつのって来た風が、まだ濡れている白い前
掛を、彼女の頬にいきなり張りつけた。このさわやかな平手打ちは悦子の頬をほてらせた。
三郎はどこにいるのであろう?
『愛の渇き』
三島由紀夫 (
新潮文庫)より