よい休暇を

決して消えてなくなったわけではないだろう。それはそこにあったときの希薄な装いをただくりかえしているだけだ。春のセーターをTシャツに着替えるように。そうしてバカンスへでもでかけるように。
ロメールは何にむかって愛を囁きつづけたのだろうか。きっとパリの空にむかってだろう。そしてその囁きは雲となって四季をめぐる。
人類は今これまでに経験したことのないステージへと足を踏みいれているのかもしれない。けれど、歴史とはいつもそういうものだ。ひとがいつもひとでしかないように、水はいつも水であり、雲もまた雲であるだろうから。
今目の前にある雲、これから生起するであろう雲、ひとつとして同じもののない雲はあまりに似すぎているどこでも目にする雲でもあるだろう。フィルムのコマのように、パリの空はブルターニュの空へと続いている。そして雲は今日も流れる。


アレックス「明日から旅行だ」
ファビアン「僕らも」
アレックス「サルジニア?」
ファビアン「ブルターニュだよ」
アレックス「じゃ、よい休暇を」
ブランシュ「いろいろごめんなさい」
レア「わたしこそ。じゃ、よい休暇を」


1987、「友だちの恋人」より