首には紐のはしが

礼拝堂の床には、鎖かたびらや土や無数の毛のような繊維などがまざりあってできた七つのかたまりが、舗石をすっかりおおいつくしていた。そこには蜘蛛の巣が張り、けばだった草や無色の黴が生えていた。虱がいっぱいたかっているような銀白の玉虫色と、エメラルド色に映えてむらがり飛ぶ蠅の色とが、交互にきらめいていた。
 しかい、かれはその空間を偵察しながら、幾百年も前から憔悴している自分自身の心臓が、意志のなかで造りかえられて、再び鼓動しはじめるのを感じた。
 高い円天井の下の虚空に、壮麗な少年の裸体が宙づりになって、ゆっくりとまわっていた。眼はとじ、頭はうなだれ、ふさふさとした長い黒髪はひろがって、その華奢な両肩にかかり-首には紐のはしが見えていた。
 少年は回転しながら、胸や腹やなめらかな脇腹や肉のひきしまった尻などの、蒼白な肌の種々相を見せていた。それに完璧なまでに優美な形をした脚を。短くて太い陽物と丸々とふくらんだ睾丸さえなかったら、それは少女の裸体とみまごうばかりだった。神経質そうなその両手はいまだに背中で縛られていた。



『バフォメット』第三章より