色白な指の上に

「おまえはおとなの年令にもなってないのに、よくもこむつかしいことをいうな!さあ、今すぐその僧房へ入れ。きたえてやる!・・・・」
 オジエ・ド・ボーゼアンと名のるその少年は、かれをじっとみつめていた。ビロードのようなその瞳には、陰険さは微塵もなく、聖女テレジアそっくりの奥ぶかいまなざしがきらめき、従順そうに見えはしたが、何か不吉な滑稽劇からうけとるような気晴らしをかくしきれないようにも見うけられた。首領はふいに烈しい憤りにかられ、いらだち、精神錯乱者のように、その少年の首をつかむと、胴着を剥ぎとった。下着が、喘いでいる胸の盛り上りをくっきりと見せている。それを見てのぼせたジャック殿は、その下着を引き裂いた。たちまたにして、瑞々しい雪花石膏の胸の肌があらわれた。オジエ・ド・ボーゼアンと名のる少年は、顔をのけぞらせ、眼をなかば閉じ、唇をなかば開いていた。首領はたかぶって、少年をゆさぶろうとした。そして、おお、驚嘆すべきことに、かれは実際そのたくましい腕で力いっぱい少年をゆさぶった。少年のあまりにも華奢な首を締めるためにも、処女のようなその胸にそっと触れるためにも、彼自身の火焙りになって黒焦げになった肉体が、その気短かな暴力ざたのうちに、ふたたび形成されたように思われた。少年の羽根の騎士帽は落ち、その漆黒の巻き髪は、年老いた聖堂騎士の痩せ細った蠟のように色白な指の上にひろがった。もう疑う余地はなかった。それは、レガノに遣わされた間諜ではないとしても、法王の、国王の、まわしものだったのだ。
「こいつ!魔女め!女スパイめ!いったい誰が、この聖なる建て物のなかへそのような服装をさせて、おまえを忍びこませたのか」
「神にかけて誓います。わたくしはオジエ・ド・ボーゼアンそのものでございます!」
 少年はそういって、ダイヤモンドの指輪のきらめいている美しいしなやかな手をあげた。



『バフォメット』第五章より