秤の皿

「どうもわたしにはよくわからん」
「どうぞそんなことにはお構いなく!」とほうもない裸体がいった、「首領の霊息とモンスズメ蜂とを秤にかけてみましょう」
「おまえの分銅と目もりはなにかね?」
 なおも自分をジャック・ド・モレーだと思っている霊息がたずねた。
「殿の分銅や目もりと同じものです!」
 その裸体は、秤の両方の皿の釣合いをとってから、一方の皿に死んだモンスズメ蜂をのせた。
するとその皿がさがり始めた。
「では、殿をおはかりしましょう。こちらの皿に霊息を全部お吐きください」
 しかしながら、かれが懸命に霊息をその皿の上に集中させても、その皿はぴんとはねあがったまま、さがりもしなかった。そしてモンスズメ蜂の載った皿は低くさがったまま、少しも上へ持ちあがらなかった。
「いったい、殿はどこへ行ってしまわれたのですか」
 その裸体は、長い巻き毛を動かしながらそういった。そしてまつ毛をしばたたきながら、そのとほうもなく大きな眼球を右から左へまわした。


『バフォメット』第六章より