風を送る

「君は別さ。物書きだから」
「そうね。小説を書いているときは、嫌でも目を開けてなきゃならないから」
「ふいごを操るのか?」
「違うわ。風を送るのはわたしじゃないの。主人公たちの衝動が風を送るのよ。あるいは、主人公たち
の行動理念って言ってもいいけど」
「でも、君の力も少しは働いてる」
「わたしは何もしてないわ。観察するだけでいいの。わたしは何ひとつ生み出さないわ。わたしは発見
するの・・・」



クレールの膝」(『六つの本心の話』早川書房)より