茶匙

愛情Ⅰ

 愛情のめかたは
二百グラム。

 僕の胸のなかを
茶匙でかき廻しても
かまわない。
どう?からつぽだらう。

 愛情をさがすのには
熟練がいるのだ。
錠前を、そつと
あけるやうな。

 愛情をつかまへるには
辛抱が要る。
 狐のわなを
しかけるやうな。

 つまり、愛情をおのがものにするには大そうな覚悟が要るのさ。
愛情とひきかへにして、
ただより安く、おのれをくれてやる勇気もいる。

 おのれ。そいつのねだんは
十三ルピ。


金子光晴『愛情69』(岩波文庫)より