魔法も薬も

金子光晴が一生手にすることがなかったものを賢治や中也は手にしていた。そしてそれゆえに彼らは名を残し今も多くの人びとの心の襞をくすぐる。彼らが手にしていたものは「距離を埋める魔法」。それに対して、金子が手にしていたのは「距離を埋める魔法にかからない薬」。おそらく荷風が常用していたのも同じ種類の薬だろう。彼らは自分が惚れた女の尻しかくすぐらなかった。
どちらを手にした者の方が幸福であったか、それはだれにもわからないが、魔法も薬もわたしたちの手のなかにないことだけは確かだ。たぶん、それが一番の幸福なのだろう。もちろん黄金の幸福はいまだランボオの手のなかにある。