#練習用

僕たちと羊とマルメロと

見落とされたまま枝にぶらさがるマルメロは揺れる それから 夜GPSの破片が流れる 朝羊が消える 昼泥棒と市民が影踏みしながら通りすぎる 酸っぱい雨に濡れ 奇形の鳥に脅かされ キンユーの空っぽの背中にすり寄られ お前は 恐れ慌てる手前で 宙ぶらりんに…

緑色の地

ここだけは緑なす静穏の地

ゆらゆら

ゆらゆら帝国が解散した。今の時代はわたしにとって「すの入った」ような時代だけれど、そこにまたひとつ「す」が入ってしまった。そんなことはもう珍しいことではないから今さら悲しんだりしないけれど、鼻歌で「空洞です」のなかの曲のひとつでも歌ってみ…

やくもたつ

いろいろといいたいことはあるけれど まざりあってもにごるだけ それよりなんでもないような はなすまでもないような ことでもひとつふたつなり につめることもないままに はしりがきしてはしりさる ふりしたふりしてふりかえり しゅーまんあたりのふれーず…

よい休暇を

決して消えてなくなったわけではないだろう。それはそこにあったときの希薄な装いをただくりかえしているだけだ。春のセーターをTシャツに着替えるように。そうしてバカンスへでもでかけるように。 ロメールは何にむかって愛を囁きつづけたのだろうか。きっ…

大つごもりより雪

大つごもりより雪。ひと足先に 春の野に霧立ち渡り降る雪と人の見るまで梅の花散る 『万葉集』巻五 八三九 「新訓 万葉集」(岩波文庫)より

蝶のことば

日高敏隆氏が亡くなる。好奇心と自由な感性、そして柔軟な思考で動物の行動を探究してきた彼のことを、やはり先ごろ亡くなったレヴィ=ストロースが知の巨人と呼ばれるのなら、わたしはなんと呼ぼう。 「犬のことば」という本が日高氏との最初の出会いだが、…

秋の田の穂向きの寄れる片寄りに君に寄りなな言痛くありとも 但馬皇女 万葉集 第巻二 一一四

たいふう

たいふうがくると しょっちゅうていでんになった いまかいまかとまちつづけていても それでもやっぱり それまでさわいでいたてれびや やみよからぽっかりうかんでいたへやが きゅうにくらくなったりすると やっぱりあわててしまって だけどもなんだかきゅう…

目には見て手には取らえぬ月の内の楓のごとき妹をいかにせむ 万葉集 巻第四 六三二

夏相聞

大伴家持、紀女郎に贈れる歌一首 なでしこは咲きて散りぬと人は言へどわが標めし野の花にあらめやも 万葉集 巻八 一五一〇 「新訓 万葉集 上巻」(岩波文庫)より

衛星の影

忘れたい 忘れない 永遠の周回 宇宙へと解放されることもなく 地上へと舞いもどることもなく 恒星のあかるさを反射させながら まわる うたう ねむる 金属製の記憶 負傷したこども そよ風 油田 溶けていく氷河 さよなら 燃える 美しく 燃える きみ おれ ぼく …

ゆっくり

ゆっくり ゆっくり あまぐもきえて さわさわ さわさわ はっぱがゆれて むふむふ むふむふ みるくをのんで すやすや すやすや ともにねむりて ゆったり ゆったり てあしをのばし すたすた すたすた ろうかあるいて ゆっくり ゆっくり おうちにかえろう ゆっく…

すべての〈知〉は、絶対という観点から見れば方法論である。だから、明確に方 法的なものに対するもの怖じは無用である。方法的なものは器であって、唯一者の 外側にあるすべて、それ以上のなにものでもない。 F・カフカ「ノートG」(『夢・アフォリズム・…

夢の中の・・・

私がこう云った時、背の高い彼は自然と私の前に委縮して小さくなるような感じがしました。 彼はいつも話す通り頗る強情な男でしたけれども、一方では又人一倍の正直者でしたから、自分 の矛盾などをひどく非難される場合には、決して平気でいられない質だっ…

おへそ

男は、いちいちびつくりしてみせ、 ばかみたいに上ずつた声で、言ふ。 「これがおへそといふものかい」 てめへだつてもつてゐるくせに。 金子光晴「愛情13」『愛情69』(岩波文庫)より

待つということ

八蔵 何の話してるだ。 船長 五助を喰べる話だ。 八蔵 ……やっぱ、その話か。早く海へ流さねえからいけねえだ。 西川 八蔵、おめえ、こったら話聴いても驚かねえのか。 八蔵 ……驚きてえんだが驚けねえのさ。なぜ驚けねえのかと、不思議でたまんねえけど驚けね…

行方知れずの船となり、

いったい何処へおもむこうとしているのか、わからぬままに魅了し、またみずからも途方にくれながら流れゆき、ときに座礁し暗雲を見つめ、ときに見知らぬ港に停留し不味い酒と年増の女を抱き、そうして半ば舵の壊れた航跡の果てに行方知れずの船となり、それ…

茶匙

愛情Ⅰ 愛情のめかたは 二百グラム。 僕の胸のなかを 茶匙でかき廻しても かまわない。 どう?からつぽだらう。 愛情をさがすのには 熟練がいるのだ。 錠前を、そつと あけるやうな。 愛情をつかまへるには 辛抱が要る。 狐のわなを しかけるやうな。 つまり…

おとぎばなし

「では、このグリーンのは」と彼は言う。「お気に召しませんか?」 「ええ、駄目ですね」 「こちらの色はお客様によくお似合いです」 「ええ」とぼくは言う。「でも、欲しいのとちがうんです」 「どこか、ご不満でも?」 「いや別に。要するに、そんなに好き…

「玄関を入るとタタキになっていて、上がると四帖半のタタミ、右手に応接間の扉、その前を過ぎると廊下が奥のほうへ続いていて・・・・・」 「僕はこれから君の電話のところまで行こうとしてるわけじゃないんだよ。ただ電話がどこにあるか、それだけを言って…

木陰

神社の鳥居が光をうけて 楡の葉が小さく揺すれる 夏の日の青々した木陰は 私の後悔を宥めてくれる 中原中也『山羊の歌』「少年時」より

いまだしらざるつちをふみ

そはわがこころのさけびにして またわがこころのなぐさめのいづみなれば みしらぬわれのかなしく あたらしきみちはしろみわたれり さびしきはひとのよのことにして かなしきはたましひのふるさと こころよわがこころよ ものおぢするわがこころよ おのれのす…

まあるくあいたあなのなか

こがねだなんていわれても このぴかぴかのいっちょーら ぶどうににているつるのはを しずかにはむのがたのしみで まあるくあいたあなのなか にせものもどきのどんぐりと そだちざかりのどんぐりと おいらのぴかぴかほうりこみ ぶどうににているつるはのび ま…

どくだみの花

梅雨に入ろうとする少しまえに庭の片隅でどくだみの花が咲きだす 犀星も高校時代によく読んだ詩人のひとり 蛇 室生犀星 蛇をながむるこころ蛇になる ぎんいろの鋭き蛇になる どくだみの花あをじろく くされたる噴井の匂ひ蛇になる 君をおもへば君がゆび する…

それだけのこと

時は逝く 時は逝く、赤き蒸汽の船腹の過ぎゆくごとく、 穀倉の夕日のほめき、 黒猫の美しき耳鳴のごと、 時は逝く、何時しらず、柔かに陰影してぞゆく。 時は逝く、赤き蒸汽の船腹の過ぎゆくごとく。 北原白秋 『現代詩の鑑賞(上)』伊藤信吉(新潮文庫)よ…

あれは

言葉なき歌 あれはとほいい処にあるのだけれど おれは此処で待つてゐなくてはならない 此処は空気もかすかで蒼く 葱の根のやうに仄かに淡い 決して急いではならない 此処で十分待つてゐなければならない 処女の眼のやうに遙かに見遣つてはならない たしかに…

単純なことは

カモミールが地面に種を落しはじめ、そしていつしかバラも散り、やがて梅雨に入る。そのころに満開となる花たち。単純なことはいつでも繊細で複雑な経緯を他愛もなく色にかたちにしてしまう。だからひとはいつも愚かでひとのなすことはいつもすばらしいのか。…

い咲き廻れる

車持朝臣千年の作る歌一首 鯨魚取り 浜辺を清み うちなびき 生ふる玉藻 に 朝凪に 千重波寄り 夕凪に 五百重波寄る 辺つ波の いやしくしくに 月に異に 日に日に 見とも 今のみに 飽き足らめやも 白波の い 咲き廻れる 住吉の浜 『万葉集』巻第六-九三一 (旺…

めでたき対価

モロモロのイストワールはほろ酔いの星の蛇行か踏み外してさ ゆえに歴史とは内容を読むべきものではなく、かたちを触るべきものなのだろう。そうして、おそらく声はそこからしか聴こえてこないだろう。 フィギュアの落札価格十数億は、歴史を生真面目に読み…